小日向 文世 代表作

1954年(昭和29年)1月23日生まれ。北海道出身。 東京写真専門学校を卒業後、1977年にオンシアター自由劇場に入団。 1996年の同劇団解散まで、中核的存在として活躍する。解散後は映像にも活動の場を広げる。 小日向 文世.

fumiyo kohinata. 50音から探す1954年、北海道出身。主な出演作に、ドラマ『HERO』シリーズ、『JIN-仁』『緊急取調室』『コンフィデンスマンJP』、映画『犬飼さんちの犬』『清洲会議』『コンフィデンスマンJPプリンセス編』、舞台『オケピ!』『国民の映画』など。NHKでは、連続テレビ小説『まんてん』『まれ』、『永遠のニシパ~北海道と名付けた男 松浦武四郎』『みをつくし料理帖』、大河ドラマ『新選組!』『風林火山』『平清盛』『真田丸』などに出演。プレミアムドラマ『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』では、初老の妻(竹下景子)の妊娠にうろたえ悩みながらも奮闘する夫・江月朝一を好演する。源為義役 源氏と平氏といえばどちらも武家の名門ですが、平氏は壇ノ浦で滅亡しているせいか、どことなく源氏の方が華やかな印象が強かったんです。ところが僕が演じた為義は源氏が華やかになる前(笑)、凋落の一途を辿っていた時代の棟梁なんです。一方の中井貴一さんが演じられた平氏の棟梁・忠盛は大変な脚光を浴びていて、光と影でいえばこちらは日陰の存在。息子の義朝(玉木宏)からは情けない父親だと思われているだろうなとわかってはいても、忠盛にものすごい対抗心を燃やしていました。ただ何をやっても裏目に出るという情けない人物でしたね(笑)。 それでも義朝にはなんとかこれからの源氏を背負ってほしいという思いが強く、後半は大河ドラマの枠を超えて父と息子のヒューマンドラマを演じているようでした。保元の乱では、家督を譲った義朝と敵味方になって戦うという悲劇の結末になりましたが、それまでの父と子の物語に集中しました。 余談ですが僕はこのドラマの撮影中に右足首を脱臼骨折しているんです。みなさんが「落馬したの?」と聞いてくださるんですが、違うんです(笑)。岩手ロケの最中、ホテルを出たところで足を滑らせてしまってしばらくは松葉杖で撮影に臨んでいました。先生からは1か月間は動かないようにと言われましたが、手術なしで奇跡的に治りました。ロケ先でも馬に乗っているだけのシーンなど、あまり問題なく撮れたのでよかったのですが、松葉杖をつきながら現場を移動するというのがね、なんとも為義の不幸な感じを体現していたなと思います(笑)。池畑大悟役 池畑大悟というのは天才的なパティシエということで腕は一流なんですが、めちゃくちゃ偏屈な男でした。「ここまでやる?」というほど希(まれ)を罵倒したり(笑)、いわゆる職人気質の人物。それが妻の輪子(りょう)さんの前ではまるで違う顔を見せるなど、大悟という人のいろいろな面が出ていてとても面白い役でした。偏屈だけれどウソは言わない、裏を返せば情に厚い男だったんだと思います。希が能登に戻ることになった時に「これを持っていけ」と包丁を渡したシーンも良かったし、最後に希のケーキを食べに能登に行ったところにも大悟らしさが表れていましたね。 パティシエ役ということで製菓指導をされていた辻口博啓さんのもとにも3回ほど通い練習してきました。実は僕、劇団時代にアルバイトで銀座のサロンでスイーツを作っていたことがあるんです。チーズケーキなんかも仕込んでいたんですよ。そのころホイップは散々やらされていたのでそれだけはけっこう得意でした。 希役の土屋太鳳ちゃんとは、映画『犬飼さんちの犬』で一度共演していたようです。僕は忘れていたのですが、太鳳ちゃんから「冬の寒い日のロケで小日向さんからカイロをいただいてすごく嬉しかったんです」と言われて、あの時の女子高生が太鳳ちゃんだったのかって。そういえば、すごく寒そうだったので僕が持っていたのを一つ分けて上げたことを思い出しました。太鳳ちゃんは固くなったカイロをその後もずっと大事にとっておいたそうです。本当に良い子だし、かわいくて娘のような感じで接していました。豊臣秀吉役 秀吉役をやるにあたって、最初に脚本の三谷幸喜さんがおっしゃったのが「僕の中で秀吉といえば圧倒的に『太閤記』の緒形拳さんです。とにかくそれを超えるような秀吉を期待しています」って。すごいプレッシャーをかけられたんです(笑)。ただ三谷さんが書いてくださった秀吉は子どものように無邪気だったり、怒り狂ったり冷徹だったりと、とにかくいつでも心の内を全部はき出している感じなので演じていてもストレスはありませんでした。 そんな隠し事のない子どものような無邪気さに正室の寧(鈴木京香)も側室の茶々(竹内結子)も、さらには部下たちもついてきたんでしょうね。僕自身に関しては、鈴木京香さんと竹内結子さんに挟まれるなんて後にも先にもない、なんて贅沢な役だったんだろうと思っています(笑)。 贅沢といえば衣装も本当に豪華でしたね。ほぼ毎シーン着替えていましたから、女優陣より衣装の数は多かったのではないでしょうか。秀吉らしい明るいきれいな色の衣装をたくさん着させていただきました。 そんな秀吉もやがて元気なころの輝きがなくなっていきます。とても天下人だったとは思えない老いていく人間の残酷さ、わびしさ、お漏らしまでしてしまう姿が描かれましたが、それでも必死に生きようとして息絶える。そんな秀吉を演じられたことが本当に素晴らしいと思いましたし、一生に一度あるかないかという光栄な役で役者冥利に尽きる1年でした。種市役 「つる家」の種市は澪に板場を任せて見守る人物ですが、黒木華ちゃんが演じるお澪坊がなんともけなげで、心から支えてあげたくなってくる。華ちゃんは本当にぴったりの役どころだったと思いますし、代表作といっていいんじゃないでしょうか。 物語は人情劇で泣ける逸話もたくさんあったし、また料理がどれもこれも全部美味しかったですね。第1話の「はてなの飯」で旬を過ぎた戻りがつおで作ったおにぎり、第2話の「とろとろ茶碗蒸し」の茶碗蒸しなど本当に美味しかった。華ちゃんも食いしんぼだから(笑)、休憩中に目をつけておいて終わると「いいですか?」と聞いて食べていましたよ。 つる家のメンバーは女性ばかりで、またみなさんすごく素敵だったんです。お澪坊と同じ長屋で暮らす元料理家の女将で品の良いお芳さん(安田成美)、同じ長屋の気っぷの良いおりょうさん(麻生祐未)など、僕は美人に囲まれている感じでそれも良かったです(笑)。 人情話の中でもお澪坊と幼なじみの吉原の花魁・あさひ大夫(成海璃子)とのシーンは心に染みましたね。境遇は変わってもお互いを小さいころの名前で呼びあうシーンなどは泣けて泣けて困りました。種市さんもお澪坊のことを娘のようにかわいがる無邪気で明るいおじさんですが、情にあふれた人物でしたね。江月朝一役 定年を迎えたサラリーマンがいきなり奥さんから子どもが出来たと告げられるなんて、ものすごいお話ですよね。最初に企画書をいただき、なおかつ原作の漫画本を読ませていただいた時には、これを実写化するのは難しいだろうなというのが正直な感想でした。 ところが上がってきた脚本を読ませていただくと、70歳で出産するということ以外はすべてが非常にリアルだったんです。子どもが生まれる前の「産もうか、産むまいか」、「この歳で果たして」という悩み。将来子どもが成人した時、一体何歳になっているのかという初老の二人に突きつけられた現実。どれ一つとっても朝一さんと夕子さん(竹下景子)夫婦の会話がリアルなのでホッとしました。実は延々と続く二人の会話に「なんだよ、いい歳して子どもなんか出来ちゃって、ちょっと気持ち悪い」と思われたどうしようと心配していたところもあったんです(笑)。でも撮影したところは違和感なく見ることが出来たし、監督からも「二人の会話がリアルで良かった」と言っていただいて安心しました。 むしろ子どもが生まれた後、子どもに翻弄されるところは、僕も竹下さんも若いころに子どもが出来た時の大変さを重ね合わせることができて問題なくできましたね。 僕らの世代はビートルズを聴いて育っているので、この歳になってもあまり老いたという実感はないんです。だけど世の中的にはおじいちゃんですよね。だからこそ僕らの世代がこの作品を見てちょっと元気になれたらいいなと思っています。もちろん子どもを作るのは不可能だけれど、これから地味に穏やかに暮らしていこうと思っていた夫婦に子どもが出来て翻弄されていく。同時に子どもという新たな愛情に満ちたものが目の前に表れたことによって夫婦の新たな愛情も生まれていく。非常に愛にあふれた作品だと思います。現実は介護などもあり厳しいかも知れないけれど、長年連れ添って空気のようになってしまった夫婦がお互いの存在をもう一度見直した時に、そばにいることに感謝の気持ちや愛おしさを感じることができる。そうありたいなと僕自身も思っています。敬称略